骨粗鬆症治療薬による顎骨壊死・顎骨骨髄炎(ARONJ)に関する医科と歯科の協同ステイトメント 2021

岐阜県歯科医師会・岐阜県病院歯科医会
岐阜県臨床整形外科医会・岐阜大学医学部整形外科学教室

骨粗鬆症治療薬の副作用である ARONJ は現在、実臨床で発生している。また、ARONJに対する医科と歯科の認識の違いにより双方の治療に支障をきたし、間に立つ患者が困惑している事例があることも多く報告されている。
これらの問題を解決するために岐阜県歯科医師会と岐阜県臨床整形外科医会は協議を行い、岐阜県病院歯科医会および岐阜大学医学部整形外科学教室の監修のもと「医科と歯科の協同ステイトメント」を発表することとした。実臨床において医科歯科連携を推進することにより ARONJ が予防され、医科および歯科での診療が適切に行われ、より多くの患者が恩恵を受けることを期待している。


I. 医科歯科連携について
 1. 連携の目的
  骨粗鬆症診療を行う医師と骨粗鬆症治療中の患者を診療する歯科医師が連携してARONJ の発生を予防するとともに、医科歯科ともに歯の健康と継続的管理の重要性を啓発し、患者がより幸せな生活が送れるようサポートする。
 2. 本ステイトメントの適応範囲
  1) 本ステイトメントに賛同する全ての医師・歯科医師
  2) 骨粗鬆症治療薬の内 ARONJ リスクのある薬剤(資料①PDFファイルなお、がんなどに対する治療は除く。
 3. 連携の方法
  1) ARONJ リスクのある骨粗鬆症治療薬投与開始前から連携することを基本とする
  2) 医科歯科連携開始時の医科→歯科の診療情報提供書(資料②PDFファイル
  3) 医科歯科連携開始時の歯科→医科の診療情報提供書(資料③PDFファイル
  4) 医科歯科連携中の医科→歯科の診療情報提供書(資料④PDFファイル
  5) 医科歯科連携中の歯科→医科の診療情報提供書(資料⑤PDFファイル
  6) 診療情報連携共有料 120 点を双方が算定
  7) 必要な場合は電話、FAX、メールなどによる連携を追加

II. ARONJ に関する基本事項(資料⑥PDFファイル

III. 骨粗鬆症治療における ARONJ に関する重要事項
 1. 一般的事項
  ① 適切な医科歯科連携を行いながら骨粗鬆症治療を行うと、ARONJ のリスクは下がる。
  ② ARONJ の原因は薬剤による骨代謝の低下と感染(骨髄炎)であるが、発症には骨髄炎が重要で、感染予防により発症は抑制できる。
  ③ ARONJ リスクのある薬剤は、原則として歯科医により口腔内の衛生状態が確認されてから投与を開始する。必要な抜歯などの侵襲的歯科治療は投与前に済ませておく。
 2. ARONJ リスクのある薬剤投与中に侵襲的歯科治療が必要となった場合
  ① ARONJ リスクのある薬剤投与中で侵襲的歯科治療が必要となった場合は、原則として速やかに抜歯する。抜歯を待機することにより感染が悪化し、ARONJ のリスクが高くなる。
  ② ARONJ リスクのある薬剤は、原則として侵襲的歯科治療前に中断しない。ただし、骨折リスクが高くない状態となっている場合は、医科と歯科で協議し ARONJリスクのない薬剤への変更を検討する。
  ③ 原則抜歯 1 時間前にアモキシリン 250~500mg を投与し、術後は 48~72 時間アモキシリン投与を原則とする(主治医の判断でセフェム系等他の抗菌剤でも構わない)。炎症がある場合は消炎後抜歯すること。侵襲の程度、範囲を可及的最小に抑え、処置後に残存する骨の鋭端は平滑にし、術創は骨膜を含む口腔粘膜で閉鎖することが望ましいが、状態に応じて粘膜をよせる程度でも構わない。
  ④ デノスマブ(プラリア)は 6 か月に 1 回投与するが、6 か月を超えると一過性に骨吸収が増加して骨折のリスクが高まる。また、その半減期が約 1 か月程度であることを加味して侵襲的歯科治療の時期を検討する。
  ⑤ ゾレドロネート(リクラスト)は 12 か月に 1 回点滴静脈内投与するが、ビスホスホネートであり骨に蓄積する。12 か月を超えても一過性に骨吸収が増加することはないため、投与時期と侵襲的歯科治療時期が近い場合は、侵襲的歯科治療終了後に状態が落ち着いてから投与することを検討する。
  ⑥ ロモソズマブ(イベニティ)は重症骨粗鬆症に対して 1 カ月に 1 回、12 カ月投与する。また、投与終了後に骨吸収抑制薬を使用することが必須である。投与中断は可能な限り避けるべきであり、投与前の口腔内処置の完了、投与中の口腔内管理は極めて重要である。侵襲的歯科治療の際も ARONJ リスクが極めて高い場合を除いて継続して投与することを基本とする。

 3. 抜歯後の対応
  ① ARONJ リスクのある薬剤は、原則として侵襲的歯科治療後に中断しない。ただし、必要に応じて ARONJ リスクがない薬剤への変更を検討する。
  ② 侵襲的歯科治療の侵襲の程度、範囲、抜歯後の被覆困難、口腔内の衛生状況などから ARONJ リスクが高いと判断される場合は、ARONJ リスクのない薬剤への変更につき、医科と歯科で協議して決定する。
  ③ 侵襲的歯科治療後薬剤を変更した場合は、侵襲的歯科治療部位の骨性治癒がみられる 2 カ月間程度は ARONJ リスクのある薬は再開しないことを原則とする。ただし、骨折リスクが極めて高い場合は術創部の上皮化がほぼ終了する 2 週間後に再投与につき医科と歯科で協議する。
  ④ 侵襲的歯科治療部位の治癒が確認できた時点で、歯科医師は医科主治医にARONJ リスクのある薬剤の再開が可能であることを速やかに連絡する。
 4. すぐ侵襲的歯科治療を行う予定はないが口腔内の衛生状態が不良の場合、ARONJ リスクのある薬剤の投与は骨折リスクと ARONJ 発症リスクに応じて医科と歯科で協議し決定する。

IV. 骨粗鬆症に関する重要事項
 1. 骨粗鬆症治療の目的は骨卒中(脊椎骨折、大腿骨頸部骨折)を予防することである。
 2. 骨卒中は脳卒中と同じように、患者の寿命および健康寿命を縮める。
 3. 骨粗鬆症治療薬は継続的に投与すると骨卒中を減少させるエビデンスがあり、骨粗鬆症治療薬を中断すると、中断の長さに応じて骨卒中リスクは上がる。
 4. 重症骨粗鬆症(骨折の危険性が高い骨粗鬆症)とは、骨密度が 60%程度未満(骨粗鬆
症は 70%以下)、骨密度 70%以下で 1 個以上の脆弱性骨折あり、既存椎体骨折が 2 個以上、既存椎体骨折の半定量評価でグレード 3(著明な圧壊)のいずれかに該当するものであり、椎体あるいは大腿骨近位部の新規骨折リスクは極めて高く早急に確実に骨粗鬆症治療を開始、継続すべき状態である。
 5. ARONJ リスクのない内服薬は椎体骨折抑制のエビデンスはあるが大腿骨近位部骨折抑制の十分なエビデンスがない。ARONJ リスクのある薬剤は椎体骨折および大腿骨近位部骨折抑制の十分なエビデンスがある。
 6. 米国においてビスホスホネートの使用量が増加するとともに大腿骨近位部骨折の発生率が減少し、ARONJ の危惧のためビスホスホネートの使用量が減少すると、その減少に伴い大腿骨近位部骨折の発生率が再度上昇したことが報告されている。
 7. ビスホスホネート製剤の骨における半減期は年単位であり、2-3 か月休薬しても骨内から消失することはない。


V. 医科歯科連携の実際
 1. 医科歯科連携開始時(医科→歯科)
  1) 患者に ARONJ リスクについて説明する(資料⑦PDFファイル
  2) 現在の歯科治療およびかかりつけ歯科医を確認する
  3) ARONJ リスクのある骨粗鬆症治療薬処方を開始する前に、必ずかかりつけ歯科医師を受診することを勧め、骨粗鬆症医科歯科連携診療情報提供書(医科→歯科連携開始時)を患者に手渡す。
  4) かかりつけ歯科医師は、同診療情報提供書(医科→歯科連携開始時)を持参した患者を診察し ARONJ リスクのある薬剤の投薬の可否について同診療情報提供書(医科→歯科連携開始時)で医科に回答する。
  5) 歯科医師から ARONJ リスクのある薬剤の投薬が可能であるとの回答があり、薬剤の投薬を開始した場合は、医師は骨粗鬆症医科歯科連携診療情報提供書(医科→歯科連携中)で速やかに歯科医師に伝える。
  6) 医科歯科連携時にすでに ARONJ リスクのある骨粗鬆症治療薬を処方している場合においても、かかりつけ歯科医師を受診することを勧め、同診療情報提供書(医科→歯科連携開始時)を患者に手渡す。
  7) 抜歯などの侵襲的歯科治療が必要な場合はその旨を返信し、侵襲的歯科治療が終了した場合、速やかに医師に骨粗鬆症医科歯科連携診療情報提供書(歯科→医科連携中)で伝える。医師は ARONJ リスクのある薬剤の投与について回答する。  2. 医科歯科連携開始時(歯科→医科)
  1) 歯科で治療中の患者のうち骨粗鬆症治療中で ARONJ リスクのある薬剤の内服あるいは注射治療を行っていることが判明し、医科歯科連携を行っていない場合は、骨粗鬆症医科歯科連携診療情報提供書(歯科→医科連携開始時)を作成し患者に手渡す。
  2) 歯科で治療中の患者のうち骨粗鬆症治療中で、抜歯などの侵襲的歯科治療が必要となった場合は、医科歯科連携を行っていない場合は骨粗鬆症医科歯科連携診療情報提供書(歯科→医科連携開始時)を患者に渡し、医科かかりつけ医を受診するよう勧める。
  3) 医科かかりつけ医は同診療情報提供書(歯科→医科連携開始時)を持参した患者を診察し、現在の骨粗鬆症治療について回答する。

 3. 医科歯科連携中
  1) 医科、歯科ともに患者が継続して骨粗鬆症治療および歯科診療を継続して受けることを啓発する。
  2) 抜歯などの侵襲的歯科治療が必要となった場合
   ① 歯科医師は医師に抜歯などが必要である旨を骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書
   (歯科→医科連携中)で伝える。
   ② 歯科医師は患者に骨粗鬆症治療薬の継続あるいは変更に関しては医師と相談するよう話す。
   ③ 医師は原則としてこれまでの投薬を継続するが、患者の骨折リスク、全身状態、
    ARONJ に関する理解、これまでの薬剤の効果、などを総合的に勘案して治療薬を再検討し、患者にわかりやすく説明するとともによく相談して、患者が納得した上で治療薬を決定する。医師は今後の投薬について歯科医師に回答する。
   ④ 歯科医師は自院であるいは病院を紹介して速やかに抜歯を行う。病院を紹介する際にはこれまでの医科歯科連携のコピーを添付する。
   ⑤ 患者からの質問には医師も歯科医師も本協同ステイトメントおよび添付資料に基づいて回答する。
  3) 抜歯などの侵襲的歯科治療後
   ① 歯科医師は抜歯など侵襲的歯科治療後医師に骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書
   (歯科→医科連携中)で情報提供する。
   ② 抜歯後に ARONJ リスクが高くなる状況(広範囲の侵襲、歯肉の被覆困難など)があれば、詳細を「その他」に記載した上で診療情報提供し、医師は必要に応じて薬剤の一時的変更などを検討する。
 4. ARONJ 発症あるいは疑い時
  1) 医師は ARONJ が疑われる症状を把握した場合には、骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書(医科→歯科連携中)を作成し、速やかに歯科医師を受診するよう促す。
  2) 歯科医師は ARONJ が疑われる症状を把握した場合には、骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書(歯科→医科連携中)を作成し、速やかにかかりつけ医師を受診するよう促す。
  3) かかりつけ医師は速やかに ARONJ リスクのある薬剤を中止する。
  4) 重症骨粗鬆症であれば PTH 製剤の使用を検討する。
  5) ARONJ 治療中は ARONJ 発症リスクのある薬剤はすべて中止する。エディロールや SERM の使用は骨折リスクに応じて検討する。

 5. ARONJ 治癒後
  1) PTH 治療が開始されていれば、2 年間は PTH 治療を継続する。
  2) PTH 治療が行われていない場合は、ARONJ リスクのない薬剤で治療を再開する。
  3) 骨折リスクが高い場合は PTH 終了後 ARONJ リスクのある薬剤の再開の可否について、骨折リスクおよび ARONJ 再発リスクを歯科医師と協議し、患者の意向などを総合的に判断して決定する。

VI. その他
 1. 今後について
 本ステイトメントは、実際に医師および歯科医師が運用して問題点などをフィードバックし、発表 1~2 年後に見直しを行う。

 2. 参考資料PDFファイル
  資料① 骨粗鬆症治療薬の ARONJ リスクPDFファイル
  資料② 骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書(医科→歯科連携開始時)PDFファイル
  資料③ 骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書(歯科→医科連携開始時)PDFファイル
  資料④ 骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書(医科→歯科連携中)PDFファイル
  資料⑤ 骨粗鬆症医科歯科連携情報提供書(歯科→医科連携中)PDFファイル
  資料⑥ ARONJ に関する基本事項PDFファイル
  資料⑦ 医科歯科連携患者への説明文PDFファイル

 3. 参考文献
 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:
     顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016
 重篤副作用疾患別マニュアル 骨吸収抑制薬に関連する顎骨壊死・顎骨骨髄炎
    (平成 21 年 5 月(平成 30 年 6 月改定)厚生労働省)
 骨粗鬆症の予防と治療ガイドラン 2015 年版
 各薬剤添付文書